元島生

文章・音源・詩・活動・いろいろ

黒い点

黒い点を見ている

あれはゴミだろうか

何かのシミだろうか

僕は横を通り過ぎる

糸くずの固まったものだ

拾う事は出来る

さっと拾ってゴミ箱に入れることは

何の造作もないことだ

だけど なぜか それができない

視界に入れながら

何度もそこを行きすぎる

 

ここは大浴場の脱衣所で

僕は清掃員

それを拾う事は 僕の仕事で

何の造作もないことだ

だけど なぜか それができない

 

人の汗の染み込んだタオルの束を 担いだあと

髪の毛や 剥がされたシップを 手で掴んだあと

びしょびしょに汚れたトイレを 膝をついて拭いたあと

僕はそこを通り過ぎる 

まるで 

一人息子がそこで遊んでいるのを ふと確認する母のように

そっと目をやり また 立ち働く

とても大切なものが  ちゃんとそこにあることに

安心でもするかのように

 

他人の汗で重くなったサウナマットを

汗をたらして 片付けながら

ふと思い出したりしている 

 

あの糸くずは

誰だったのだろうかと