元島生

文章・音源・詩・活動・いろいろ

見る

雷が鳴っていた
今にもざーと来そうな街
僕は駅に急いだ
ギリギリ駅舎に滑り込み
ホッとして 灰色の雲を 見あげた
その時 はっきりと僕の世界は変わった
まるで磨りガラスのメガネを外したかのように その時 雲がしっかりと見えた
それは長く忘れていた感覚だった
僕は いつのまにか 何もかもを見てはいなかった
全ては知っている世界の中に収まり
ぼんやりとしか見ずにも 日々を過ごすことが出来るようになっていた
僕を悩ませるものは すべが見えないものだった
急いで逃げ場を探している鳥達
汚れたシミのついた駅舎の屋根
屯して笑う若者の隆々しい背中
早くもヘッドライトを付けて、ロータリーに入るバス
ひとつひとつがよく見える
それらと共に今ここで生きている

それは救われる感覚だった


見ることだ
今どこに生きているのか
よく見ることだ
そうすれば死ななくてすむ