小さい朝
最近は、まだ薄暗い時間に起きる。
冷たい水で顔を洗い、洗濯機を回して、みそ汁を作っておく。
そうして部屋に引っ込んで、ストーブに薬缶をかけ、こたつに入る。
パソコンを立ち上げ、文章を書いたり、本を読んだりする。
お湯が沸いたら、コーヒーを淹れる。
ゆっくり飲みながら、また書いたり読んだり、たまに、ギターを弾いたりする。
チッチッチと鳥の声。シャーっと水の音。
ドタドタ、バタバタ、着替えなさーい。
音が増える。
僕はカタカタ。
ノッていたら、朝食も食べずに篭る。
「行ってきまーす」に「はいよー」と返事をする。
そして家は、静かになる。
僕は部屋を出て、洗濯物を干し、ゆっくり着替えて、出勤する。
いつもの朝。好きな時間。
今日は少し違った。
パソコンをカタカタ、本をふむふむ、ギターをポロポロ。
そんな僕の向かいに、長女が座った。
歌詞をふむふむ、歌をラララー、宿題カリカリ。
やがて、みそ汁とごはんと人が、運ばれてきて、ぺちゃくちゃ、もぐもぐ、ガヤガヤ、ワヤワヤ、わはは、わはは。
僕は黙々と書き続けていたが、やがてパソコンを閉じ、ぺちゃくちゃ、もぐもぐ、一緒に笑ったりした。
そしてやがてまた、静かになった。
部屋を出ると、洗濯物は干してあった。
僕はゆっくり着替えて、出かけた。
いい時間だったなーと、ふと考える。
朝の時間を一緒に過ごせるのは、あと何年あるだろう。
その小さな時間が、心に残していくものは、なんて尊く、大きいのだろう。
日々はなんて無自覚に、消えていたのだろう。
明日もまた、小さい朝が来る。
子どもらが大人になって、僕らの元を離れても。
彼女たちの朝は、毎日やってくる。
その朝が、幸せであってほしいと思う。
明日も、小さい朝を大切にしよう。
その時間が残すものが、ずっと続きますように。
冷たい水や、キラキラの光や、温かい味噌汁や、洗濯機の音や、コーヒーの匂い。
ドタドタ、バタバタ、ぺちゃくちゃ、もぐもぐ、ガヤガヤ、ワヤワヤ、わはは、わはは。