元島生

文章・音源・詩・活動・いろいろ

ある重み

1月5日

新年最初の仕事は広島。
休んだ後の仕事は、気がつくことが増える。
忙しいと荒む。気づくこと自体が減る。
別世界に身をおく時間が、大事なのかもしれない。
今年は、面白いことをしたい。
つまらないことはしたくない。
 
夜は、ゲストハウスに泊まった。
併設されたバーでは、何人か飲んでいたが、交るのはやめといた。
そこに傾ける種類のパワーが出なかった。
挨拶程度、静かに寝て、朝食を食べて、静かに出た。
 
1月6日 
午前中は空いたので、美術館に行くことにした。
美術館は公園の中にあり、入り口がどこか迷った。
同じく公園内にある図書館から、おじいちゃんが出てきたので、場所を聞いた。
何を見るのかと聞くので、歌川広重展だと言うと、江戸時代に興味があるなら、来月こんな展示もあると教えてくれた。
富山から来たので、来月は行けないというと、富山の話に。
仕事の話から社会の話もする。
たった2〜3分の短い時間だったのに、内容が濃く、ふと生きていることが軽くなるような時間だった。
ゲストハウスの用意された場に参加するのは、ある重みを感じた。
こういう何気無い会話はいい。
日が差すように、何気なく、生きていることを肯定される。
スマホがあれば、道を聞く必要がなくなる。
こういう「関わり」は減るだろう。
人の生活はどう変わるだろうか。
おじいさんは「今の高齢者が死んだら人口はぐんと減るぞ」と言った。
なんとなく耳に残った。
 
美術館。
マリーローランサンの女性の絵が寂しくて綺麗だった。
彼女の鎮静剤という詩は、高田渡も歌っていて、好きな歌。
絵は初めて見たが、よかった。
シャガールもよかった。青い世界。温かくて優しい。
歌川広重はオシャレでキャッチーで入り込めた。
当時、「虫聞き」という風習があって、秋に、花見よろしく虫の音を聞きながら、外で飲み食いをしたそうだ。その絵。
大晦日に、ある大木に、全国の稲荷神社から狐が集まり、火を灯すという狐火の絵。
祭りの様子や、吉原の見返り柳の絵。
当時の世界に吸い込まれた。
歌川広重は世界が好きだったのではないかなと思う。
この世界に行ってみたくなる。
 

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根付け展というのもやっていて、これが素晴らしかった。
江戸時代、着物にはポケットなかったため、巾着やタバコ入れを帯に紐でくぐらせて持ち歩いた。その紐が落ちないように留め具として、紐の先に付けるのが根付け。
掌に収まるサイズの、象牙や木を彫って趣向を凝らした彫刻作品。
その発想力、表現力に驚く。
落語の噺に、彫刻家や画家の作品が、実際に動き出して、人間世界を助けたりする噺がみられるが、この根付け達を見てると、動き出しそうで、本当にそういう事があったのではないかと思えた。
これを身につけ、歩く人たち。
日本人はこんなにも精神性豊かな人たちだったのだと思う。
これが失われているのは明らかで、寂しい。
表現するということを、大事にしたい。
もっと、いろんなものを見たい。 

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  【 鎮静剤 】
 マリー・ローランサン 
 堀口大學 訳
退屈な女より もっと哀れなのは 悲しい女です。
悲しい女より もっと哀れなのは 不幸な女です。
不幸な女より もっと哀れなのは 病気の女です。
病気の女より もっと哀れなのは 捨てられた女です。
捨てられた女より もっと哀れなのは よるべない女です。
よるべない女より もっと哀れなのは 追われた女です。
追われた女より もっと哀れなのは 死んだ女です。
死んだ女より もっと哀れなのは 忘れられた女です。

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マルク・シャガール「私のおばあちゃん」