元島生

文章・音源・詩・活動・いろいろ

優しさの行方

ミキの入院。病院に泊まっている。 エアコンの無い家から来たので、病院なのに凍死しそうだ。 同室のおばあちゃんは、86歳。1人ぼっち。 ミキのことを、いい子だ、いい子だと何度も言う。ミキの不安を和らげてくれる。 ミキは耳の手術前で、あまり聞こえてな…

問われれば

【問われれば】 なぜ唄うのかと問われれば ひとりぼっちだからと答える 世界はひとりぼっちの集まりだ 木立もビルも揺れる葉も 赤子も線路も夕立も この世に寂しさを持たないものは 何もない 便所でひとり 光が射してきて これ以上に綺麗なものがあるだろう…

ゆれる

タスクをこなす。 ひたすら消していく。 何を成し遂げたのだろうか。 何を成し遂げたいのだろうか。 僕の日々の中で、最も大きな意味を持つ行為は、最も小さな行為。 この世界の平和は、僕の内面にこそ完成する。 自分自身に取り組むことこそが、最も大きな…

枯渇

通勤電車。帰り。30分間。じっとしていられないような、いたたまれないような。 疲れからか。 こういう時がよくある。 そんな時は、思いつくままに何か書いてみる。 「枯渇」。ただ浮かんだに過ぎない。 渇き枯れた状態。すべて無くなった状態。 しかし、…

雨に打たれた 体が冷たい 喉が痛い 風邪だろうと思う 電車は満員 どこまでも孤独

鬼 「鬼になる気はあるの?」 唐突に言われ、僕は箸を置いた。 平和な朝食中に、苦難はやってきたのだ。 人生には、鬼にならなければならん時も、あるのだろう。 腹を括り、妻を見据えた。 「何があった」 そう聞くと 「ゆいが節分の豆まき楽しみにしてるの…

見る

雷が鳴っていた今にもざーと来そうな街僕は駅に急いだ ギリギリ駅舎に滑り込みホッとして 灰色の雲を 見あげたその時 はっきりと僕の世界は変わったまるで磨りガラスのメガネを外したかのように その時 雲がしっかりと見えたそれは長く忘れていた感覚だった…

信仰

僕は女性を非難したくない 例え自分がみじめな男だと気づいてしまっても 僕は補助で暮らしている人を非難したくない 例え自分が理不尽な目にさらされていても 僕は誰かに出ていけと言いたくない 例え自分が追い出される恐怖の中に生きていようとも 僕は誰か…

そうまでして

そうまでして自分を守らなければならないのだ 在日だ、安部だと絶対悪を作り上げてまで レイプを告発した勇気ある女性を誹謗中傷してまで そうまでして自分を肯定しなければ、自分が社会の中の意味ある一人だと思えないのだ 結婚できない自分 社会的地位が低…

友人からの手紙

新しいCDありがとうございました。 自分の心情に馴染んでくれる曲ばかりで、いつも大切に聴いています。 こちらの方は相変わらずですが、最近も妻が仕事を終え、家に帰ってきて辛い思いを抱えながら話をする時があります(彼女は彼女なりの現実をサバイヴし…

意味

意味 今日は遠足で、動物園に行くのだという 「茶臼山?」 「うん。そうだよ」 5歳になる三女は、納豆をかき混ぜながら頷いた 茶臼山動物園は、7年か8年前に行ったきり まだ、てくてく歩きの長女と 青葉のような夫婦 チューリップ花壇の前で、写真を撮った…

不器用な雪掻き道

僕の家に隣接する古い長屋には、高齢者の方が、数人暮らしている。 みんな、とてもいい人達で、我が家の子どもたちの、容赦ない喧噪にも「元気になるよ」と言ってくれ、助かっている。 家に一番近い部屋の、一人暮らしのおじいさんとは、窓越しによく話をす…

整える

乱れている時に 雨の音はうるさい 汚れている時に 紫陽花は目障りだ 濁っている時に 朝日は嫌らしく 怒っている時に 優しさは吐き気がする 欲している時に 友は邪魔者 怠けている時に 縛られ 恨んでいる時に 凝り固まる 黙した時に 雨の音は愛おしく 清めた…

幸せな会話

「早くー遅刻するよー」「ちゃんと締めとかなきゃ猫入るからさ」「ははは、泥棒じゃなくて?」 「今日ね、箱アイス6割引だったのよ。奇跡じゃない?」「奇跡ではないでしょ。値引きでしょ」「いや奇跡だなー」

太陽はおなかの中

今日は雨だ。 ちゃーちゃん(のはら)を、幼稚園に送る車中での会話が、何やら心に残るものだったので、書いておきたい。 「ちゃーちゃん、今日は雨だねー」 「雨ってやさしいよ」 「どうして?」 「お野菜を育ててくれるんやよ」 「そうか。じゃ雷は?」 「や…

逃げ人生

僕が最初に逃げ出したのはいつなんだろう。 中学校の頃、同級生が先生に反抗していた。僕も本当はそうしたかった。だけどできなかった。怖かった。自分が外れるのが怖かった。暴力が怖かった。その友達を心では支持しながら、自分は先生に従った。 その辺が…

黒い点

黒い点を見ている あれはゴミだろうか 何かのシミだろうか 僕は横を通り過ぎる 糸くずの固まったものだ 拾う事は出来る さっと拾ってゴミ箱に入れることは 何の造作もないことだ だけど なぜか それができない 視界に入れながら 何度もそこを行きすぎる ここ…

摘む

早めに帰ったら、娘の友達が遊びにきていた。 帰るというので、散歩がてら送って行った。 光がきれいで春を思わせたが、まだ寒かった。 空き地でつくしを見つけたので、摘んで帰った。 つくしがあると僕が言うと、「あーほんとだ!」と宝物でも見つけたよう…

寄り道

ちょっと寄り道をした 屋上から夕陽を見た その時に僕は見つけた 柔らかく光る 屋根の間に 風に揺れる 娘の髪に 幼い頃 祖父が 電車の通る時間に 線路沿いまで連れて行ってくれたこと 両親と街にウインドーショッピングしに行く予定だったのに 時間がないか…

10000年前からの手紙

100年前 海を越え 半年かかって届けられた手紙は 今朝 僕の右手の中で送られて コーヒーを淹れ終わるより早く返事が来た 1000年前 竹から生まれた美しい娘が帰っていったという美しい月には 何もなかったとTVは告げた 僕は今 縄文土器を手に持って…

何もかも新しくなる世界に

風邪をひいた 僕はヘッセを読んでいた 子どもの精神世界を犠牲にして 世界は先を急いでいる 100年前の警告は それさえも消費され消えていくようだ 難しい顏をしていただろうか ページをめくっていた僕のそばに のはらがやって来た パパ風邪ひいたからかわい…

ふるさと

ふるさと 新幹線がふるさとを出る生きているみなさんも死んでいるみなさんもこころ穏やかにありますようにと目を瞑る

箱の中

箱の中 東京は箱の中のようだ四角い箱の中で うろうろウロウロ朝が来たり夜が来たり生まれたり死んだり 誰かに飼われているのかもしれない飼育籠の中で 僕らは四苦八苦しているのかもしれない鑑賞するとしたら こんなに面白い生き物もいないだろう「お、暴動…