元島生

文章・音源・詩・活動・いろいろ

居場所のない社会

駅から続く、昔ながらの商店街。シャッターも増えてきたが、八百屋や魚屋は元気だ。40年も若さを失わない、古いマネキン。学生が集まるクレープ屋。いつも同じ人がいるパチンコ屋。平日は、人もまばらだ。

近年、駅周辺の開発で、商店街を取り囲むようにして、次々に新しいビルやマンションが建てられていた。街は禁煙になり、ゴミも減り、商店街だけが、古びた色をしていた。

古い商店街と、新しい住宅街の間に、その公園はあった。きれいになっていく街に、押し出されるようにして、公園にはダンボールハウスが増えていた。

これは、ある子どもと、ホームレスのおっちゃんの、小さな出来事だ。

 

「おっちゃん!なんでここに住んでんの?」

「ん?なんでやろな~。じゃまか?」
「ううん。別にええよ。俺も後ろに基地作るし」
「さよか。ジュース飲むか?」
「ええの?」
「かまへんよ」
「おおきに」
「おう」


「おっちゃん!おるか?」
「ん?おー、あの時の坊主か。なんや、また学校の帰りか」
「うん。あんな、おっちゃん。これ預かってくれへん?」
「なんや。これ。テストかいな」
「うん。家もって帰ったらしこたま怒られんねん」

「なんでや?」

「点数低いねん」

「どれ、なんや、20点かて、えらいもんやで!」

「いやあかんねん。20点では」

「ふーん。厳しいもんやな。そんなもん捨てたらええやんけ。おっちゃんなんか、ぎょうさん捨てたで~」
「いや、持っててほしいねん」
「ふーん。まあええよ。そこ置いとき」
「ありがとう」

 

学校帰り。いつものようにおっちゃんのいる公園に寄った。
柵がしてあり、入れなくなっていた。
おっちゃんのダンボールの家はグチャグチャになって隅っこにあった。

 

「なあなあおばちゃん。ここ何で入られへんの?」

「あーこれな。ホームレスが住みよるやろ」
「ホームレスてなんや?」
「家無い人の事や」
「家あったやんけ」
「あんなもん家ちゃうわ~。みんな迷惑しとったやろ」
「してへんよ!家壊すなよ!俺の基地もあってんぞ」
「そんなんおばちゃんに言われてもホームレスのせいやがな」
「違うわ!大人のせいやろがい!」

 

 

強制撤去が行われたのは、近く国際会議が行われるからだった。
オリンピック開催でも、ホームレスの排除ための「オブジェ」や「寝ころがれない椅子」が作られている。
富山も例外はない。
夜中、駅周辺に水を撒く自治体もある。
公園に住まざるを得なかったおっちゃんの家が、強制的に壊される光景。
子どもの居場所と、おっちゃんの居場所は国際会議のために奪われたのだった。
おっちゃんが安心して居れる場所をどう作るか。ではなく、どうやっておっちゃんの見えないきれいな街にするか。
そういうマインドセットで税金や芸術が使われている間は、どんな居場所を作っても、僕らの社会は居場所のない社会なのではないだろうか。
「持っててほしいねん」
そう言った子どもの心に思いを馳せたい。
我々大人は、彼の心の最も大切なところを排除する社会を作ってしまっている。